東方命萃酒 ~ Resurrection of Heaven's Liquor.
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ここに一枚の新聞がある。妖怪の山に住む鴉天狗の射命丸 文(しゃめいまる あや)が発行している文々。新聞である。内容は次の通り。
第123季 卯月の一 『文々。新聞』
益々春も深まり、桜も満開の見頃を迎えようとしている。神社でも花見や宴会で騒がしくなることだろう。
さて、花見といえばお酒だが、外の世界には天の美酒と呼ばれる『天甜酒』というお酒があるらしい。そしてこの度、この幻想郷にもその天甜酒が現れたという情報を掴んだ。それは妖怪の山の奥深くにて姿を現すという事らしい。
天の美酒と呼ばれるくらいなのだから、それはとても美味しいお酒なのだろう。私としても非常に気になるので、今後もこの情報を追って行きたいと思う。
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妖怪の山の麓に建つ紅魔館。悪魔の館と呼ばれるその館の主人の妹であるフランドール・スカーレットは、地下室で幽閉されながら495年以上を過ごしてきた。
フラン「あぁー暇だわ。何か面白いこと無いかしら」
彼女がふと窓の外に目を向けると、一枚の新聞が舞い降りてきた。
フラン「あら、これはあの天狗の新聞……。
ふむふむ、これは面白そうね。
確か神社の宴会も近かったはずだし、このお酒を持っていけば
霊夢や魔理沙たちも喜んでくれるに違いないわ」
そう言うとフランドールは妖精メイドたちの制止を振り切り、早速妖怪の山へ向かい始めた。幽閉されてるといっても、フランドール程の能力があれば、脱出しようと思えば容易く抜け出す事は可能だった。
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人里から離れた山奥にあるマヨヒガの地、八雲 藍(やくも らん)は自身の式神の橙の様子を見に来ていた。
藍 「マヨヒガへ来るのも久しぶりだ。橙は元気にやってるだろうか」
そんなことを考えながら歩いていると、目の前に一枚の新聞が降ってきた。
藍 「ん、なんだこれは。
ふむ……それほどの美酒、紫様にお贈りしたいものだ」
帰りにでも少し探してみようか、と思いながら、藍は一先ず最初の目的の橙の様子を見に行く事にした。
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妖精ですらも迷うという迷いの竹林、その奥深くで不老不滅の蓬莱人、藤原 妹紅(ふじわらの もこう)は棲んでいた。
妹紅 「うーん、最近はあまり輝夜と殺し合いもしてないし退屈……
ってあれ、あそこに落ちてるのは……」
地面に落ちていた一枚の新聞を拾い上げ、妹紅は新聞を読みながら頷き始めた。
妹紅 「へぇ、天の美酒、か。どんなものかは知らないけど、
先に見つければ全部私のものってわけだ」
その酒を手に入れたらどうやって呑もうか、と考えながら緋に燃える炎をちらつかせながら妖怪の山を目指し向かい始めた。
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妖怪の山に最近やってきた守矢の神社。そこには一人の人間と二人の神様が住んでいた。その二人の神様のうちの一人、洩矢 諏訪子(もりや すわこ)は境内をうろうろしていた。
諏訪子「あーうー、早苗は人里に買出しに行ってるし、
神奈子もどっか行っちゃったし、何か面白いことないかな」
そう言いながらふと神饌を見ると、御神酒が無くなっていることに気づいた。
諏訪子「あら、御神酒がもうなくなってるのね。
早苗気づいてたかな? 一応伝えに行こうか、暇だし」
諏訪子は早苗の後を追い、人里の方へ向かい始めた。
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その新聞に導かれるように、各々はそれぞれの目的を持って『天甜酒』を目指し始めた。誰も文々。新聞の内容に疑問は持っていなかった。彼女が新聞に嘘や偽りを書くような事はしないことは誰もが分かっていたし、事実その新聞に書かれていたのは全て正真正銘の事実だった。
?? 「うん……流石だね、これは今夜は最高に美味い酒が呑めそうだ」
果たしてこれは異変だったのだろうか。
今回、巫女や魔法使い等、普段異変解決に挑む人間達は最後まで全く動かなかった。
……いや、最後までそれに気づかなかったという方が正しい。
人知れず、巨大な力を持つ者達だけがそこに集うこととなった――
――東方命萃酒 ~ Resurrection of Heaven's Liquor. |